Summary | ミレニアムの頃、日本から世界へ発信した ”機能性食品”の名称・概念・実例と”特定保健用食品”の行政は、Nature(1993)が ”Japan explores the bound between food and medicine”と報道するに及び、各国に強いインパクトを与えた。とりわけEUの反応は鋭く”functional food science”を今世紀の食品科学の主軸に据え、その産業を世界戦略の1つに位置づける勢いである。
巻返しを図るかのようにわが国も最近、内閣府科学技術会議は ”機能性食品”をライフサイエンスの重点研究項目の1つに指定し [井村裕夫:学術の動向(日本学術会議)、7(3),40-44'(2002)]、文部科学省は5年間10億円の生活者ニーズ対応研究「食品の非栄養性機能物質の解析と体系化」(代表者:荒井綜一)を採択し、また80社が参加するNPO日本国際生命科学協会(ILSIJapan)は ”機能性食品研究タスクフオース”を設けた。
内外のこうした動きの中には1つの共通項がある。”「強調表示」(claim)こそ機能性食品の必須要件” とする認識がそれである。したがって、科学的に正しい表示を目指す基礎研究が各国で、とりわけ欧米で、きわめて活発に展開され始めた。この場合、研究の主体は表示データの基盤となるバイオマーカーの開発なのである[Brit.J.Nutr.88,Supplement 2(2002)]。
機能性食品の表示として現在、”function claim”(摂取した食品が生体の標的機能をどの程度改善するかを示す表示)と ”disease risk reduction claim”(摂取した食品が病気になる危険度をどの程度減少してくれるかを示す表示)の2つが考えられている。前者のためのバイオマーカーを”target function biomarker”といい、標的器官の細胞・遺伝子・酵素・ホルモン・代謝産物などの応答がその例である。後者のためのそれを ”intermediate endpoint biomarker”といい、病気が当面回避されると見なし得る臨床症状がその例である。
プロバイオテイクスを例にとると、前者のためのバイオマーカーとしては腸内菌叢、刷子縁上皮細胞、腸管遺伝子、消化酵素などの動態を、後者のためのそれとしては便秘解消、下痢回復などの所見を挙げることができる。これらの場合、
バイオマーカーには ”factor”(機能発現の原因)と ”indicator”(機能発現の
結果)があることに留意せねばならない。
ごく最近、機能性食品分野にも遺伝子科学の波が押し寄せ、標的での遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析するトランスクリプトミクス、タンパク質発現プロファイルを解析するプロテオミクスなどが各国で、とりわけ産業界で積極的に採用されるようになった。ニュートリゲノミクス(nutrigenomics)の名で呼ばれるこの新科学の誕生は、より説得力のある明快な表示を希求する強い願望が、世界の食品産業界に急速に浮上し始めたことを物語る[荒井綜一:臨床栄養, 102(2),191-194(2003)]。
本講演では、食品機能の解析研究と機能性食品の開発研究のこうした国際動向の概要を紹介し、討論の資としたい。
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